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さよなら神様

8点。「神様ゲーム」の続編であり,神様=鈴木太郎も再登場。前半3作品は,神様の存在を前提として,犯人と被害者の隠されたつながりの捜査や,アリバイくずしが描かれる。しかし,後半の3作品ではガラッと印象が変わり,神様の存在を前提としたより深みのある作品となっている。「バレンタイン昔語り」は起承転結の「転」に当たる作品でここで短編集の傾向が変わる。最後の「さよなら,神様」は傑作といっていいデキ。「比土との対決」のラストを伏線として生かしつつ,インパクトのある一言で終わる。総合的に見て,傑作と言えるできの作品
〇 総合評価
 全知全能で,ミステリとしては真犯人を見抜き,明らかにしていまう神様=鈴木太郎の存在を前提とした特殊世界のミステリ。どの作品も神様の存在を生かした作りになっている。「少年探偵団と神様」は,明かされた犯人と被害者との間のつながりを探すという構成。真相は人違いだったというもの。「アリバイくずし」は,神様が明かした犯人にはアリバイが成立してしまう。アリバイをくずすには被害者が犯人のもとに来る必要があるがその必要性が薄い。しかし,神様の存在を前提とすると,いくら薄くても殺害の可能性があれば犯人は神様が指摘した人物ではないかと感じさせるラスト。「ダムからの遠い道」も「アリバイくずし」と同じ構成。神様が告げた真犯人のアリバイを崩すという構成。「アリバイくずし」と「ダムからの遠い道」の2作のトリックはかなりチープ。神様の存在を前提とする世界観だから許されるトリックだろう。このトリックで普通のミステリを書けばバカミスになるのは間違いない。この構成をあえてはずす「バレンタイン昔語り」は起承転結の「転」に当たる作品。神様に犯人を聞き,捜査したことが原因で殺人が起こるというもの。人物誤認トリックが使われている。神様の存在を生かした傑作といっていいデキ。「比土との対決」に至ると犯人が神様の嗜好を利用し,アリバイを作ろうとする。「さよなら,神様」は市部始が,バレンタイン昔語りをはじめ,全ての作品の市部の行動が桑町と結ばれるためという構成にしている。そして,桑町に「今のわたしには,わたしの心には,かつてのように神様が忍び込む余地は全然残っていないのだ。残念でした❤さよなら神様」と言わせるラストのインパクトは抜群。「比土との対決」のラストが伏線になっている。神様の存在までかすむ桑町のツンデレぶり。神様の存在を生かした各作品の存在。ややチープなトリックの作品もあるが,このラストも踏まえると傑作といっていいデキ。★4で。

〇 メモ
〇 少年探偵団の神様 ★★★☆☆
 「神様ゲーム」に続いて自称「神様」の鈴木太郎少年が登場。この学校では,鈴木太郎は2つほど「奇蹟」と思われる力を発揮し,クラスメイトから神様と言われている。
 その神様から,主人公,桑町淳のクラスの担任の美旗先生が殺人の容疑をかけられている。殺害されたのは,美旗先生の学生次代からの柔道のライバル青山先生。桑町は神様から真犯人は同じ少年探偵団に所属する上林という少年の父,上林護だということを聞く。
 桑町は,市部という少年が作った探偵団の力を借りて捜査をする。探偵団のメンバーは市部始,丸山一平,比土優子,上林泰二に桑町淳を含めた5人。
 上林護と被害者の青山にはつながりがない。捜査と推理の結果,上林護は被害者の青山と美旗を間違えて殺害したのではないかというもの。タヌキにびっくりしてとび出し,酔っていたので反対側に戻り,反対方向に帰る青山を美旗と間違ったのでは。道の左右に残っている吸い殻がそのことを裏付けている。
 上林護は美旗を襲い今度は現行犯で捕まる。上林泰二は転校。探偵団を去る。
 最初に神様から真犯人の名を聞き,神様の言っていることが事実か,捜査と推理をするという構成の作品。この短編では,加害者の上林護と被害者の青山の間には何の関係もないというハードルがある。そこで探偵団が出した結論は,美旗と青山を間違えたというもの。間違えた原因はタヌキと点滅した電灯。鈴木太郎=「神様」の存在がこの作品に強烈な個性を与えているが,トリックはチープ。この短編を単体として見たときの評価は★2~★3・・・★3かな。

〇 アリバイくずし ★★★☆☆
 この作品で「神様」=鈴木太郎が主人公に告げた犯人は丸山聖子。探偵団のメンバーの丸山の母親だった。被害者は里子という老女。桑町淳は拾った柴犬を上津里子に引き取ってもらっており,その犬も殺害されたことから,鈴木に犯人を聞いたのだった。
 捜査をするが,丸山聖子にはアリバイがあり,上津里子を殺害できない。探偵団はアリバイをくずせないか推理するが…。上津里子の家に忍び込んだのは上津里子の甥。上津里子はカレーを作ってからラッキョウを買いに店に行ったことで,たまたま,丸山聖子がいる場所に行き,丸山聖子に殺害されたというもの。丸山聖子に犯行はできる。しかし,警察は上津里子の甥を犯人として捕まえる。桑町淳が殺害した犬を殺したのはこの甥だった。
 丸山聖子は普通に考えると犯人足り得ない。しかし,神様が犯人だと言っている。そこで,犯人足り得ることができるか推理するという構成。面白い構成の作品である。しかし,真相はあまりにチープ。たまたま甥が忍び込んだ時間にラッキョウを買いに丸山聖子がいる場所のとなりの店に,わざわざ行く…というもの。普通に考えればあり得ない結論で,警察もその真相に辿り着けなかったというオチ。ある意味,麻耶雄嵩らしい人を喰った作品で,バカミスといってもいい作品。出来としては嫌いな人は嫌いだろうが…★3かな。

〇 ダムからの遠い道 ★★★☆☆
 鈴木が桑町に告げた犯人は美旗進。第1話で容疑者になった桑町のクラスの担任の先生。桑町が慕う人物だ。被害者は美旗の恋人だったが二股をかけていた。その二股をかけられていた二人が容疑者で,かつ,美旗にはアリバイがあるがもう一人にはアリバイがない。
 被害者の死体はダムに投げ込まれている。美旗のアリバイを探偵団が崩しにかかるが…崩せない。
 最後に主人公は美旗の車が外車,左ハンドルの白いクーペだと知る。そして助手席に死体となった被害者を乗せていたのではないかと推理する。そうすればアリバイは崩れる。
 「さよなら神様」としてはオーソドックスな構成。鈴木から犯人とされた人物にアリバイがあり,それを崩すというもの。トリックは左ハンドルの自動車。これもバカミスともいえる程度のトリック。作品全体の雰囲気よいのでそれなりに楽しめるが,ミステリとしてのデキは平凡。ギリギリ★3かな。

〇 バレンタイン昔語り ★★★★☆
 鈴木が桑町に告げた犯人は「依那古朝美」という主人公が聞いたことがない人物。この作品は,主人公,桑町淳(女性)が男装し,男言葉を話すようになった事件ういて語られる。桑町淳は,少年とも少女ともはっきり書かれていない。しかし,性別誤認の叙述トリックをこの短編集全体を通じたメインのトリックとはせず,捨てトリックとしている。桑町は川合高夫と赤木正紀の二人から同じ日に告白される。川合と赤目は同じ産院で同じ日に生まれた親友どうし。桑町はからかわれたと思い,起こって川合に辛辣な言葉を投げかける。その日に川合が殺害される。桑町は川合を殺害した犯人が赤木ではないかと思っている。そこで鈴木に確認するのだが…鈴木が告げたのは桑町が全く知らない「依那古朝美」という人物だった。桑町は赤目が犯人でなかったことにほっとする。1週間後,伊那古雄一という少年が転校してくる。その母親は伊那古朝美。桑町は赤目と捜査をする。捜査したところ,伊那古朝美が川合を殺害したとは考えられない。赤目は伊那古朝美が川合が死んだ神社で丑の刻参りをしていた。伊那古朝美は見つかったことから赤目を殺害。桑町も殺害しようとするが,すんでのところで,市部に救われる。市部が推理する真相。それは産院で取り違えが起こっていたというもの。伊那子朝美に殺害されたのが本当の川合高夫だった。桑町が鈴木に川合高夫を殺害されたのは誰かを聞き,捜査をしたことが原因で伊那古朝美が川合(赤目)を殺害したという結果が生じた。桑町が本当に知りたかったこと,赤目(川合)はなぜ死んだのか,殺人なら犯人は誰かは謎のまま終わる。
「神様」の悪意を存分に感じさせる作品。桑町の過去が描かれ,桑町が男装を始めることになったきっかけが分かる。神様に川合を殺害した人物を聞き,捜査をしたことが原因となって本当の川合が伊那子朝美に殺害されるという展開は,もはやミステリというよりSFに近い。神様ゲームで始まる「神様」の存在を生かし,裏を書いた作品になっている。さよなら神様という短編集の中でに位置付けは起承転結の「転」。サプライズはそれほどでのないがインパクトがすごい作品。★4としたい。

〇 比土との対決 ★★★☆☆
桑町の最大の理解者である新堂小夜子が殺害される。神様に言った犯人は探偵団の仲間の「比土優子」。桑町淳対比土優子という対立構造で捜査・推理がされる。しかし,比土が新堂小夜子を殺害するためには,どうしても時間が足りない。よって,アリバイが成立してしまう。比土は自分は呪いで小夜子を殺害したが,実行犯は別にいると言う。小学一年生と小学二年生の地動説と天動説のケンカを仲裁しているうちに,桑町は真相に気付く。小夜子は比土を脅していなかったし,殺害される理由もなかった。比土は無差別殺人をしたのだ。殺害する相手は小夜子でなくてもよかった。そう考えることで比土のアリバイはなくなる。比土は神様の力を利用し,桑町と市部を仲たがいさせようとしていた。「あなたは愛をしらないようね。だから絶対的な神にも平気で近づけるのよ」という比土のセリフで終わる。この作品に至っては,犯人である比土が,神様の力を利用することでアリバイを得ようとする。その目的は桑町と市部を仲たがいさせようとすること。無差別殺人であればアリバイは成り立たないが,脅迫・恨みという偽の動機を植え付けることでアリバイを得ようとする構成はミステリとして面白い。★3~★4のデキだけど…★3かな。

〇 さよなら,神様 ★★★★★
比土優子が死ぬ。自殺か,事故か,他殺か,はっきり分からない。神様は転校する。最後に,桑町が一番知りたいことの代わりに,比土は自殺をしたという真相を告げる。その後,桑町に対するイジメが始まり,ひどい目にあった桑町は最後に転校する。数年後,桑町と市部は
同じ高校に進学する。桑町は小学5年生のときのままの鈴木少年の姿を目撃する。そして全ての真相に気付く。当時の桑町が本当に知りたかったことは,川合高夫を殺害した犯人。そして,川合を殺害したのが市部だったのだと気付く。比土は市部が心中を持ちかけたのだろうと推理する。比土も市部も鈴木の嗜好に気付き,飽くまで鈴木が楽しめる方向で危険な賭けに打って出たのだろう。特に市部は鈴木が川合殺しの犯人を桑町にまだ明かしていないことに掛けた。鈴木転校後のいじめにも市部工作があったのかもしれない。桑町の感情を市部にだけに向けさせるために。しかし,バッドエンディングには向かわない。最後は「今のわたしには,わたしの心には,かつてのように神様が忍び込む余地は全然残っていないのだ。残念でした❤さよなら神様」という桑町の心のセリフで物語は終わる。「比土との対決」のラストから,この最後に向けての伏線は張られている。とはいえ,このラストは圧巻。神様=鈴木の存在を薄いものにしてしまう強烈はインパクトのラストである。「神様ゲーム」から始まる神様シリーズは「神様」の存在を存分に生かした作品がそろっているが,最後の最後で主観的ではあるが神様の存在を否定するようなラスト。ある意味見事なラストである。読後感もそれなりによい。★5で。
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