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満願

7点。ミステリや世にも奇妙な物語風の作品が6作品収録された純粋な短編集。全体を通じた趣向などはない。収録作は6作品。いずれも,短編小説の教科書のような構成の読みやすい作品ばかり。「優等生」的な仕上がりとなっている。白眉は標題作の「満願」。ある人物についての印象がガラリと変わるラストが非常に印象的な傑作。また,倒叙モノの教科書のような構成の「万灯」も傑作だと思う。それ以外の作品も及第点。どの作品も,イヤミスというほどではないが,米澤穂信らしい読後感の悪さがあり,その読後感の悪さが作品を印象付けている。
〇 総合評価 ★★★★☆
 全編を通じた仕掛けなどがない,純粋な短編集。いずれも及第点以上のデキである。白眉は標題作の満願。どの作品も短編ミステリの教科書のような作りとなっている。米澤穂信は小説が上手いと感じさせる作品ばかりだが,大きな驚きがある作品はない。古典落語のような「良くできた」ミステリぞろい。寝る前に軽く読めるような作品ではなく,やや重めの作品ぞろい。米澤穂信好きなら当然オススメだし,初めて読む人にも勧められるようなデキの作品。★4で。

〇 メモ
〇 夜警 ★★★☆☆
 川東浩志巡査が殉職する。田原勝と田原美代子のトラブルに巻き込まれ,田原勝から切り付けられたことが死亡の原因。川東は田原勝を射殺していた。
 川東は正真者だった。些細なミスをごまかそうとする性格だった。川東が射殺された日には,いろいろなことがあった。美代子が交番に相談に来ていた。交番の側で交通整理をした誘導員がヘルメットに衝撃を受けて倒れた。
 交番長の柳岡は川東浩志の兄と話をする。通報があり,田原勝の家に行き,川東が発報する。田原勝は即死せずに川東を切りつけた。川東は,死の直前に「こんなはずじゃなかた」,「うまくいったのに」と言っていた。川東が撃った弾は5発。うち1発は庭に落ちていた。川東は死亡した日の昼,「とんでもないことになった」というメールを兄に送付していた。柳岡は真相について考えた。川東は死亡した日の昼,拳銃を触っていた。拳銃が暴発し,警備員に当たった。大事には至らなかったが,発報したことについて責任を問われる。それをごまかすために発報しようと考え,田原勝に「妻の浮気相手は交番にいる」と言ったのではないかと。
 柳岡と川東という警察の考え,内面描写がかなりリアルに描かれている。真相はミステリとしては弱めだが,世にも奇妙な物語系の作品としてはよくできている。川東みたいな男はどこにでもいそう。柳岡のような男も。妙なリアルさがある佳作。★3

〇 死人宿 ★★★☆☆
 佐和子という職場でパワハラを受けて失踪していた昔の恋人が,山奥の旅館の仲居をしていることを知って会いに行く。佐和子は「死人宿」と言われる自殺の名所の宿で働いていた。私は「合理性より優しさが大事な時もある,と学んだ気がする」と佐和子に伝える。佐和子は,脱衣所で見つけた遺書を見せ,三人の客のうちだ誰が自殺をしようとしているか、見付けてほしいという。
 「私」は,本当に自殺をしようとしているのか…合理的な疑いを挟む。しかし,「合理性より優しさが大事な時もあるということを学んだ」ことを佐和子に示すために推理をする。脱衣所で拾われた遺書は一部であり,川に流された分があると考え,落ち鮎を獲る梁にあった遺言を発見。「丸田」という名字を見付け,自殺を阻止する。佐和子は「あなたは,どうして自分から死のうとしている人を止めなければいけないのか」と訊かなかったという。
 最後は,胡桃の間に泊まっていた別の女性が自殺するというラスト。主人公は,胡桃の間に死装束だと思われる浴衣があったことを思い出し,自殺に気付くことができたと後悔する。
 最後に,米澤穂信らしい皮肉なオチがある作品。ハッピーエンドでは終わらせない。ミステリ的にはトリックらしいトリックもない。丸太の遺書が川に流れたことを示す伏線がさらりと書いてあるのはうまい。いい話で終わらせると見せて,なんとも言えないイヤな読後感でインパクトに残る作品。佳作。

〇 柘榴 ★★★☆☆
 ヒロインは皆川さおり。不思議な魅力を持つ佐原成海と学生結婚をした美しい女性。夕子と月子という娘が生まれる。成海は仕事をしない結婚相手としてはひどい男だった。娘二人を育てるために離婚をしようとする。成海は娘二人の親権を争う。
 夕子と月子は成海から母親を引き離し,自分達が成海と一緒に生活するため,夕子と月子は虐待をされていたと思わせるため,双方を傷つける。
 最後は親権を成海が得て,さおりは愕然とする。さおりは夕子と月子が虐待を受けていたと思わせるため自作自演していたことを知る。また,夕子は将来自分より美しくなりそうな月子の背中に傷をつけるという目的も持っていた。
 非常にどす黒い話。近親相関が裏にあって,父と一緒過ごし,母親を陥れる娘の話…というだけでもブラック。それに加え,妹の背中に傷をつけるために妹まで騙した姉というのは…。全くいいところがない成海という男が諸悪の根源。読後感は最悪の米澤穂信らしいひどい作品。インパクトは抜群

〇 万灯 ★★★★☆
 井桁商事という資源開発をする会社に入った伊丹という男の話。インドネシアの開発を成功させ,次はバングラデシュの開発。事故により高野という部下が右手を失い,バングラデシュ人スタッフが死亡する。開発を進めるための拠点としてボイシャクという村を選ぶ。斎藤という男が交渉に当たるが,マタボールという村の指導者的な立場に当たるアラムという男の反対よりリンチにあう。斎藤は強盗にあい,仕事を辞めてしまう。
 ボイシャク村からの誘いを受け,伊丹は一人でボイシャク村に向かう。そこでOGOというフランスの開発
会社の森下という日本人の男に会う。アラムはバングラデシュのためにガスは使いたいと考え,外国による開発反対するという理念を持っていた。
 伊丹と森下は別のマタドールの依頼を受ける。アラム殺害し,開発を進めてほしいと。伊丹と森下はアラムを自動車事故に見せかけて殺害する。森下は殺人のプレッシャーに潰され,OGOを退社し日本に戻る。伊丹は日本に戻り,森下を殺害する。
 森下はコレラだった。本来であれば伊丹と森下を結びつける要素はなかった。しかし,伊丹は森下からコレラに感染してしまった。伊丹が失踪前に森下に出会っていたことが分かると伊丹は破滅する。万灯の前で伊丹は裁きを待つ。
 ひと昔前なら十分長編ミステリになっていそうなプロットの作品。短編(中編?)に仕上げられているので非常にスピーディな展開となっている。倒叙ものであり,森下という人物を殺害した伊丹が,どうして失敗したのかがポイント。本来であれば伊丹と森下を結びつける要素は何もないはずだった。しかし,森下がコレラに感染しており,伊丹がコレラをうつされたことが犯罪の発覚につながるというストーリー。しっかりとした伏線張られている。倒叙モノのお手本のようなよくできたミステリ

〇 関守 ★★★☆☆
 桂谷峠という峠で起こった4つの自動車事故。その自動車事故を先輩ライターから「都市伝説」の取材として引き継いだ男の話。峠にあるドライブインにいるお婆さんから4つの事故の話を聞く。
 4つ目の事故の死者は前野拓也という県庁職員。3つ目の事故の死者は田沢翔と藤井香奈。二つ目の事故の死者は大塚史人。フィールドワークをしていた学生。そして最初の事故の死者は高田太志
 最初の事故の死者はお婆さんの娘の二人目の亭主だった。実際は高田はお婆さんの娘に殺害されていた。事故に見せかけて処理をしたが,そのときの凶器が石仏
 大塚は石仏が接着剤で修理されていることに気付いたので殺害された。田沢達はたまたま石仏を壊してしまい,接着剤で止められていることに気付いてしまい,殺害された。前野は観光資源を探して石仏の存在に気付き
殺害された。そしてこれらの事件を記事にしようとした主人公も…。
 これは世にも奇妙な話系の作品。ミステリ的に見ると4つの事故のミッシングリング。そのミッシングリングはお婆さんの娘の殺人を隠すための殺人というもの。単なる情報提供者であるはずのお婆さんが狂気の人物であり,主人公のライターが被害者となるというオチ。これも短編の教科書のような仕上がりのミステリ

〇 満願 ★★★★☆
 主人公は鵜川家で下宿をしていて司法試験を受けていた弁護士。世話になった鵜川妙子という女性の殺人事件
弁護をしていた。服役していた妙子が出所する日から始まる。
 妙子は私塾を開いた功が認めらられ,お殿さまから受け取った掛け軸を家宝だと言っていた。
 鵜川妙子は借金取りの矢場英司を殺害する。主人公は弁護士として計画性がなかったことを立証しようとする。殺害現場にはかつて,妙子と一緒に買っただるまがあった。
 家宝の掛け軸が掛けられ,血痕があったことなどから計画性がないと主張する。結果は懲役8年の実刑
 妙子の旦那が死に,保険金で借金を返済したことを知ると妙子は控訴を取り下げる。
 主人公は事件を振り返る。殺害の日,だるまは後ろ向いていた。妙子は家宝の掛け軸を守るため,証拠物として押収させたのではないか。殺害は計画的なものだったのでは…。家宝の掛け軸を取り戻すため,妙子はまた弁護士である自分のもとに来るのではないか…。
 標題作。鵜川妙子という女性が亭主を思う貞淑な女性だという印象から,がらっと変わる。この世をままならぬものと思い,世が世ならとほぞをかんでいたのは妙子たのではないか。主人公の学問を助けたのは家宝でもあり誇りでもある先祖を模倣してのことで,それだけが苦しい日々の中で妙子が自らを誇る方法だったのではないか…。掛け軸を守るために計画的な殺人をした狡猾な女性という印象にガラリと変わるラストは印象的。これは傑作といっていいデキだろう。
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