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トランプ殺人事件

8点。傑作。前半部分は工藤という精神科医が書いた作中作。後半部分で,典子と智久が前半部分の謎を解く。この作品で最大のインパクトがあるのは「猿使いの患者」の存在。そのほか,コントラクト・ブリッジについての解説やトランプについてのうんちくがみっちり。いくつかの暗号まで入っている。ときおり,その段階で理解が困難な章が挟まるなど,竹本健治作品特有の読みにくさがある。最後まで読むと,人間が狂気に落ちていく様を読むような怖さがある。その怖さを和らげる典子や智久のキャラクターは見事。構成に無駄がなく見事な仕上がり
評価
 サプライズ ★★★★☆
 熱中度   ★★☆☆☆
 インパクト ★★★☆☆
 キャラクター★★★★☆
 読後感   ★★☆☆☆
 希少価値  ★☆☆☆☆
 総合評価  ★★★★☆

サプライズ ★★★★☆
 猿使いの患者が戸川雅彦だったという部分は素直に驚いた。これは,そのようなサプライズが用意されている小説だと思わせない雰囲気があるからだろう。背景にあるのは時制の叙述トリック。しかし,時制の叙述トリックがあったとは感じさせないくらい,暗号やら事実を隠す叙述トリックがあるなど,技巧が尽くされた作品。猿使いの患者が戸川だと分かってから再読するとさらに怖い。
熱中度   ★★☆☆☆
 大部な用語集が挟まっていたり,その用語集に暗号が画させれていたり,技巧は見事だが読みにくい。竹本健治作品らしい読みにくさがある。読みにくい原因は,何を意味するか分からない章が挿入されるからだろう。暗号は涙香迷宮でも感じたが,見事な暗号だとは思うけど,サプライズを感じられない。とても,自分には解読できそうもないと思わせるほど難解だからだろう。特に俳句のアナグラムを使った最後の暗号とか,すごいことはすごいけど…。この読みにくさは竹本健治らしさではある。

インパクト ★★★★☆
 よく分からない小説というインパクトがある。あと猿使いの患者。猿使いの患者が話している内容は意味不明だが,猿使いの患者が戸川だという部分はインパクトがある。須藤の渡米もゲーム小説シリーズのラストを印象付けるという意味でインパクトがある。総合してインパクトはあるのだが,よく分からない小説だったという印象に終わってしまうおそれもある。

キャラクター★★★★☆
 須藤,典子,智久の三人は安定。工藤もかなりいい味だしている。そして猿使いの患者。結構個性的だし,キャラクターの人間味はある。キャラクターがしっかりしているからこそ,猿使いの患者が戸川だと分かったときにインパクトがあるとも言える。

読後感   ★★★☆☆
 猿使いの患者が戸川だと分かるラストはインパクトがある。須藤が渡米するというラストもインパクトがある。もっと読後感が悪くなってもおかしくなさそう。しかし,そこまでの読後感の悪さはない。竹本健治の文体が,読後感を悪くしないのかもしれない。

希少価値  ★★☆☆☆
 かつてはさっぱり手に入らない作品だった。しかし,創元と講談社文庫で再販されかなり手に入りやすくなっている。とはいえ,油断しているとまた手に入りにくくなる可能性はある。

総合評価  ★★★★☆
 かなりの技巧が尽くされた作品である。猿使いの患者の存在のインパクトも抜群。戸川という男が崩壊していく様が描かれているのは再読すると素直に怖い。叙述トリックとして,小説部分には,事実と話していることを混在させるという叙述トリックと時制の叙述トリックが仕込まれている。難解な暗号も3つ用意している。作中作を利用した構成は匣の中の失楽を思わせる。作中には自殺しか起こらないし,密室トリックはトランプを使った物理トリックとチープ。トリックよりプロット・構成で勝負する竹本健治らしい。事件そのものは大きな事件でないが,インパクト・存在感はすごい。傑作といっていい作品だと思う。★4で。



〇 メモ
 前半部分は,天野が事実をもとにして書いた小説という構成
【前半部分】
 天野,園倉,戸川及び園倉の4人がコントラクト・ブリッジをしばしば徹夜でしている。また,天野が勤務する精神病院にいる肩に猿がいる男の話が挿入されている。
 普段は天野‐園倉,戸川‐沢村のペアでブリッジをしている。しかし,ある日,ペアを代え,天野-沢村,園倉‐戸川のペアでブリッジをする。戸川は普段と違うピリピリした雰囲気を感じる。園倉のミスがあり,天野-沢村ペアが有利な展開。最後は園倉-戸川のペアが見事なプレイで逆転。そのとき沢村が「知ってたのねーやっぱり。」,「死ねばいいのよ」と言う。そのとき,誰もいない部屋で湯が沸く。そして,密室から沢村が消失する。沢村詠子の死体は神奈川県座間市の園倉の家にそっくりな家で発見される。
 カードゲーム用語集とコントラクトブリッジ用語表
 天野の子ども時代の回想
【後半】
 天野,須藤,典子及び智久がコントラクト・ブリッジをする。
 須藤達が天野の書いた小説を読む。智久は天野の小説の序盤に出てくる沢村と戸川の会話に出てくる俳句がアナグラムだと気付く。
 天野の患者の猿使いの男が自殺する。智久は,用語表の中に沢村が暗号「園倉さんへ,これが分かったならひそかにサインをください」という暗号を仕込んでいたことに気付く。さらに「園倉さんへ,戸川さんとペアを組んだときは負けて下さい」という暗号があった。
 智久と典子の推理。戸川と沢村は別のペアになってブリッジをしたとき,何かを賭けていたと考える。天野の記憶で沢村が失踪した日の戸川の手を再現。それが悪魔のクーと呼ばれる手札だったことが分かる。
 智久は,用語表から更に暗号を見付ける。「私は戸川さんの自殺を喰い止めようとしたが,もう疲れた。今ではそれを手伝ってやりたい気持ちさえある。」という暗号だった。
 戸川と沢村の間には自殺の賭けがあったのではないか。別のペアとなったときに戸川が勝てば自殺を認め,沢村が勝てば自殺を辞める。
 天野は「あの小説にはフィクションと言ってもいい部分がある……。けれどもこれは断言しておいていいですが,あの小説には事実以外のことは一行も書かれていないのです」と言う。
 典子は,須藤に渡米の話があることを聞く。
 智久は,更に暗号が隠されていることに気付く。鍵は,小説冒頭の俳句のアナグラム。この順番で語順を入れ替えると…「誰がどう挟んでもイカサマあり」
 天野がカットをしないというクセを利用したいかさま。沢村が用意したいかさまを利用して戸川が死を賭けたブリッジ勝負に勝ったのだ。
 典子と智久の会話。智久は,前半の小説の10章は天野がこのことを書いたことは事実。しかし,その内容が事実とは限らないということに気付く。この小説が事実として示すのは単なる失踪事件。それをごまかすための粉飾がされている巧妙な叙述トリックだった。
 天野は,沢村が自殺をしたことだけは確信していた。しかしその背景が分からない。そこで須藤,典子及び智久に背景を推理させた。密室はカードを利用したトリック。沢村は戸川の自殺を止めるために自殺をした。あるいは,沢村の自殺は戸川に対する復讐だったのではないかと。
 天野による告白。自殺した猿使いの男こそ戸川だった。沢村の消失事件が起こったのは1年前のことだった。

戸川雅彦
 沢村詠子と二人で一つのペンネーム(邪理)を持つイラストレーター。猿使いの男となり最後は自殺
天野
 精神科医。沢村詠子の自殺の背景を知るために,小説を書き,須藤,典子及び智久に読ませる。
沢村詠子
 戸川雅彦と二人で一つのペンネーム(邪理)を持つイラストレーター。密室で自殺する。
須藤信一郎
 天野の大学時代からの友人。若き大脳生理学者。今作品の最後で渡米
牧場典子
 須藤の助手。牧場智久の兄。ミステリマニア
牧場智久
 IQ208の天才少年
園倉龍吉
 紀伊では有名な素封家の四男。洋館に住んでしばしば戸川,沢村及び天野と4人で徹夜でブリッジをしている。
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