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強欲な羊

7点。米澤穂信の「儚い羊たちの饗宴」に似たテイストの作品。いわゆる「イヤミス」であり,読後感は悪い。「ストックホルムの羊」は,ある作家の長編にシチュエーションが似ている。オリジナリティという点では,やや評価を下げるが,小説としては十分に面白い。「イヤミス」が嫌いな人は避けた方が無難。好きな人はぜひ読んでほしい。収録されている作品の中での白眉は「背徳の羊」。この作品に登場する女性の描かれ方は…さすが女性作家と思わせる,リアルな怖さがある。こういう作品は大好き。期待せずに読んだが,思わぬ掘り出しモノだった。

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〇 概要
 「着信アリ!」など,映画のシナリオを「大良美奈子」という名義で書いていた著者の短編集。デビュー作「強欲な羊」など「羊」をタイトルに含む短編が5つ収録された短編集。いずれも,企みと悪意に満ちた「イヤミス」であり,読後に,忘れがたい印象を残す作品がそろっている。

〇 総合評価 ★★★★☆
 全く期待していなかったが,かなり面白かった。全体の肌触りは,米澤穂信の「儚い羊たちの饗宴」に似ている。
 女性作家らしい女性の描き方というか…描かれている女性がリアルに恐怖を感じさせる。
 特に,「背徳の羊」の「羊子」という女性の描かれ方が強烈。恐怖を感じずにはいられない。
 小説巧者でもある。「眠れぬ夜の羊」は,叙述トリックがあると知らずに読み,久しぶりに気持ちよくだまされた。叙述トリックのある作品を,叙述トリックがあると知らずに読むことができるのは幸せだと改めて痛感した。
 「ストックホルムの羊」は,服部まゆみの「この光とっ闇」に似ている。全体的にオリジナリティに欠ける嫌いはあるが,小説として十分面白い。相当なイヤミスぞろいなので,嫌いな人は嫌いだろうが,個人的には非常に好みの作品だった。
 
〇 メモ
〇 強欲な羊 ★★★☆☆
 大輪の薔薇のように艶やかで,気性の激しい麻耶子が,桜のように可憐でどこか儚げな沙耶子に殺される。物語の語り手は,その家の女中。聞き手は,麻耶子の夫の恭司だが,そのことは終盤まで伏せられている。
 語り手は,沙耶子が麻耶子を殺害するはずがないと言いながら,沙耶子がいかに麻耶子からひどい仕打ちを受けていたか,昔話を語り出す。麻耶子と沙耶子の祖母が,片足が切断された状態で遺体で発見されたこと,沙耶子の家庭教師だった榊が行方不明になったこと,石神という医師が行方不明になったこと,屋敷の旦那が精神を病んでしまったことなどを語る。
 終盤で,語り手は,沙耶子こそが「強欲な羊」だったのではないかと言う。最後には,語り手が正体を現す。語り手は,麻耶子と沙耶子の腹違いの妹であり,語り手が,沙耶子と麻耶子に嫌がらせを行い,麻耶子と沙耶子の祖母を殺害し,榊と石神を殺害し,屋敷の旦那の精神を病ました犯人である「強欲な羊」だった。語り手は,聞き手である恭二を屋敷の座敷牢に閉じ込め,恭二の足を切断していた。最後に,語り手は恭二に言う「ねぇ,恭司様,約束してくださいね。わたくしのことを誰よりも美しく描いてくださるって。麻耶子よりも,沙耶子よりも,綺麗に…。あら,そんなことをお願いしてしまう私って,少しだけ欲張りかしら……?

〇 背徳の羊 ★★★★★
 篠田には双子の子どもがいる。娘の実は父にそっくりで,娘の真は美しい母,羊子にそっくりである。家族ぐるみで親しくしている水嶋家には,夫の和馬と妻の初音と,子供の理がいる。
 理は,真にそっくりだった。篠田は,初音のところに,「ご主人のそばに背徳の羊がいます。」と書かれた手紙が届いたと聞く。初音と篠田は,和馬と羊子が不倫をしているのではないかと疑う。
 調査を進め,羊子がかつて和馬とつきあっていた事実や,羊子の過去の評判などを聞く。篠田は,羊子がだんだんと信じられなくなっていく。また,経営している会社の経営状況が芳しくなく,羊子の紹介で知り合った喜田川弁護士と相談し,忙しい時間を過ごしながら調査を続ける。
 そんな中,初音の子である理が川に落ちる。羊子と初音が一緒にいるときに事故がおきたのだが,篠田は羊子が犯人でないかと疑う。
 篠田の会社の最大の取引相手であるノギハウスが破たんし,篠田は喜田川から破産するように勧められる。篠田は羊子と和馬が不倫をしていたと考え,羊子を殺害しようとする。
 最後に,理を殺害しようとしたのが初音だということが分かる。理は,体外受精により初音が生んだ子であり,卵子を提供したのが羊子だった。初音は,和馬と羊子の関係を疑い,篠田を巻き込みながら破滅していったのだ。
 篠田と羊子は分かれる。最後は,羊子が喜田川と再婚し,幸せそうに過ごすシーンで終わる。
 強烈な印象を残すイヤミス。ミステリ要素は少ないが,世にも奇妙な物語などで映像化したら,かなりの反響になりそうな気がする。傑作レベルの作品

〇 眠れる夜の羊 ★★★★☆
 塔子は須藤文彦と婚約するが,29歳の塔子と10歳以上も年齢が離れていること,須藤が妻子持ちであったこと(すでに離婚をしている。)などが原因で,塔子の両親の反対にあい,結婚には至らなかった。須藤は,塔子の友人だった明穂と結婚する。
 塔子は,須藤と結婚できなかったことから母である静子を恨む。塔子は,明穂を殺害した夢を見る。実際に明穂の遺体が発見され,塔子は夢か現実か,判断がつかなくなる。
 塔子は再婚を考えている丸岡という男の娘である花(4歳)を預かる。花には,幽霊が見えるという。塔子が見ていた幽霊は明穂ではなく,塔子の母の静子だった。塔子は静子を殺害していたのだ。
 明穂を殺害したのは須藤。目撃証言などで,20代くらいの男と描写されていたが,須藤は,塔子より10歳以上年下の男だったのだ。
 須藤文彦の年齢の叙述トリックを巧妙に使った佳作。最後の最後でどんでん返しがある。叙述トリックがある作品は,叙述トリックがあると知らずに読みたいと改めて感じた。久しぶりに気持ちよくだまされた。★4。

〇 ストックホルムの羊 ★★★☆☆
 服部まゆみの「この光と闇」のような作品。「この光と闇」を読む前に読んでいたら,評価が変わったかもしれない。「この光と闇」は,1998年の作品であり,ストックホルムの羊は,「この光と闇」を読んでから作られた可能性もあるが…。
 誘拐犯人が監禁している女性をだましているという設定。読者には中世ヨーロッパの頃の作品だと誤認させる叙述トリックが仕掛けられている。「この光と闇」は,性別誤認トリックまで仕掛けられていたが,この作品はそこまでの展開はない。ただし,監禁されている女性が4人であり,新たに1人加わるという展開である。
 ストックホルムの羊というタイトルは,「ストックホルム症候群」=加害者と被害者が閉鎖された空間で非日常的な体験を長い間共有し続けると,被害者が犯人に共感し,信頼や愛情を感じることがあるという事例をテーマにしているものであり,改めて読み返すと相当なイヤミス。嫌悪感まで感じてしまう。そういった意味では,この光と闇に優る部分もないではないが…この光と闇の完成度には遠く及ばない。★3どまり。相手が悪かった。

〇 生贄の羊 ★★★☆☆
 「強欲な羊」,「背徳の羊」,「眠れぬ夜の羊」,「ストックホルムの羊」の4作品をつなぐという位置付けの作品。
 夜の公衆トイレで,足首に手錠を掛けられ,さびた配管につながれている複数の女性が登場する。
 女性のうちの1人は「あきりん」。これは,「眠れぬ夜の羊」の被害者である須藤明穂である。
 別の1人は,チコと呼ばれている。これは,「背徳の羊」で登場し,かつて水島和馬とつきあっていて,行方不明になったという九鬼千砂子である。
 もう一人は女子高生。この人物が何者かはここでは明かされない。
 いずれも,羊目の女の羊館=「強欲な羊」の舞台となった洋館(今は廃墟になっている。)に忍び込み,羊目の女を呼ぶという都市伝説を実行していた。生贄にすると宣言した人物を殺害しないと,自分が羊目の女の生贄になるという。
 九鬼千砂子は,実際は9年前に死んでいた。須藤明穂も,須藤文彦に殺害され,既に死んでいる。
 女子高生は,麻里亜(ストックホルムの羊の「マリア」)。麻里亜は,大路憲人…身代わりの羊とした人物だ。この人物を殺さないと,自分が生贄になる。
 最後は,麻里亜が「これから行く―」と答えるシーンで終わる。ここから「ストックホルムの羊」につながるのか…。
 全体と通じた趣向を用意したかったのかもしれんないが,やや消化不良。ミステリというよりホラー。個々の作品の登場人物が登場し,別の視点から語られたり,後日談が語られたりするのは悪くないが…もう少し練ってほしかった。★3
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